はじめに
心の回復には時間がかかります。
それはわかっている。でも、良くなったと思ったらまた落ちてしまう。
その繰り返しに、疲れてしまっていませんか?
この記事では、精神科で様々な悩みと向き合ってきた臨床心理士として、心の回復過程でよく見られる「波」について、そして波が来たときに本人と家族それぞれができることを詳しくお伝えします。
読んでいただいた方が、少しでも楽な気持ちになってくれたらと思っています。
心の回復過程には波がある
心の回復過程は、一直線に進むものではありません。
良くなる日があれば、また落ちる日があります。その繰り返しの中で、少しずつ前に進んでいきます。
それが、精神科の現場で見てきたリアルな心の回復の形です。
心の回復期に入ると、症状が少しずつ落ち着いてきます。でも、この時期こそ波が出やすいです。昨日は表情が明るかったのに、今日はまた起き上がれない。
そんな日が続くと、本人も家族も「本当に回復しているのか」と不安になってしまいます。
大切なのは、この波が回復の後退ではないということです。
波は心の回復期に自然に起きることであり、その波を繰り返しながら、少しずつ回復していくのが、心の回復の過程なのです。一日一日を見ていると波しか見えないかもしれません。
でも、3か月前、半年前と今を比べたとき、確かに少しずつ変化が起きています。その変化は、波の中にいるときにはなかなか見えないものです。でも確かにあります。
心の回復に時間がかかる理由
心の回復に時間がかかるのには、理由があります。
心の疲れは、体の疲れとは違います。休めばすぐに回復するものではなく、心がゆっくりと整っていくための時間が必要です。
そのプロセスは人によって異なり、数か月かかる方もいれば、一年以上かかる方もいます。
焦りが回復を遅らせることもあります。「早く良くならなければ」という気持ちが強くなると、心がさらに消耗してしまいます。
心の回復に時間がかかることは、弱さでも失敗でもありません。それだけ、心が真剣に回復しようとしているということです。
また、心の回復には波がある分、「また後退してしまった」という感覚が焦りをさらに強めることがあります。でも、波の中にいる間も、心は少しずつ回復に向かっています。
時間がかかることを、どうか責めないでください。
心の回復力(レジリエンス)とは
心の回復力、つまりレジリエンスという言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
レジリエンスとは、困難な状況やストレスに直面したときに、そこから立ち直る力のことを指します。この力は、生まれつき決まっているものではなく、経験や環境の中で少しずつ育まれていくものです。
精神科の現場で見てきた中で感じるのは、心の回復力は「波を乗り越えた経験」によって少しずつ育まれていくということです。
波が来るたびに傷つくのではなく、波が来ても「また越えられる」という感覚が積み重なっていきます。その積み重ねが、心の回復力につながっていきます。
レジリエンスは、特別な人だけが持っているものではありません。波の中を生きていること、それ自体がすでに、あなたの回復力の表れです。
睡眠と心の回復の深い関係
心の回復において、睡眠はとても重要な役割を果たします。
睡眠中、脳は日中に受けたストレスや感情を整理しています。十分な睡眠が取れていないと、心の回復が滞りやすくなります。逆に、眠れない日が続いているときは、心がそれだけ疲弊しているサインでもあります。
心の回復期には、眠れない夜が続くことがあります。
「眠らなければ」と焦るほど、さらに眠れなくなってしまいます。そんなときは、眠れなくても横になっているだけで十分です。体を休めることが、心の回復にもつながっていきます。
睡眠の質を整えることは、心の回復を支える大切な方法の一つです。
起きる時間をできるだけ一定にする、日中に少し体を動かす、夜は画面から離れる時間を作る。できることから少しずつ取り入れてみてください。眠れない夜があっても、それはあなたのせいではありません。眠れない夜も、心が一生懸命働いているということです。
波が来たときに本人ができること
波が来たとき、「また悪くなってしまった」と感じて、自分を責めてしまうことがあると思います。回復しようとしているからこそ、波が来たときのショックは大きいです。その繰り返しに、疲れてしまっている方もいるかもしれません。
ここでお伝えしたいのは、「こうしなければいけない」ということではありません。
ただ、波の中にいるとき、少しだけ楽になるかもしれないことをお伝えしたいと思っています。
■「今日は波が来た」とそのまま受け取ってみる
波が来たとき、無理に良くなろうとしなくていいです。元気を出そうとしなくていいです。
「今日は波が来た」とただ受け取るだけで、少し気持ちが楽になることがあります。波を無理になくそうとするより、波が来たことをそのまま認めてみてください。
波が来たときほど、「何かしなければ」と焦ってしまうことがあります。散歩に行こうとする、気分転換をしようとする。その気持ち自体は悪くありません。
でも、波が来ているときに無理に動こうとすると、かえって消耗してしまうことがあります。波が来たときは、動かないことも一つの選択です。今日は波が来た。だから今日は休む。それだけでいいんです。
■ 今日一日をやり過ごすことだけを考える
明日のことも、回復のことも、今日は考えなくていいです。今日をただ今のままで過ごすだけで十分です。何もできなかった一日でも、今日をやり過ごせたこと、それだけであなたは十分に頑張っています。
波が来たときほど、「このままではいけない」「何かしなければ回復しない」という考えが強くなりやすいものです。でも、波の中で無理に動こうとすると、心はさらに消耗してしまいます。
波の中にいる今日は、ただ今日をやり過ごすことだけを考えてほしいのです。ご飯を食べる、水を飲む、横になる。それだけで今日は十分です。明日のことは、明日の自分に任せてください。
■「もう回復できない」という考えに気づく
波が来たとき、「もう回復できないのではないか」という考えが頭をよぎることがあるかもしれません。でも、その考えは波が作り出しているものです。
波が引いていくと、その考えも少しずつ変わっていきます。今感じていることがすべてではないということを、どうか頭の片隅に置いておいてほしいのです。
■ できれば誰かに話してみる
うまく説明できなくていいです。「なんかしんどい」それだけでも十分です。言葉にすることで、少しだけ気持ちが楽になることがあります。
誰かに話すことへの怖さや躊躇いがあるかもしれません。それでも、あなたのペースで、話せる場所を持っていてほしいと思っています。
波が来たときに家族ができること
支える家族の方も、波が来るたびにどうすればいいかわからなくなることがあると思います。
昨日は少し元気そうだったのに、今日はまた落ちてしまった。何かしてしまったのか、声のかけ方が悪かったのか。そう感じてしまうのは、それだけ真剣に向き合っているからです。その気持ち自体は、大切にしてほしいと思っています。
まず知っておいてほしいのは、波は家族のせいではないということです。心の回復期には自然に波が起きます。声のかけ方が悪かったわけでも、何かをしてしまったわけでもありません。
波が来るたびに自分を責めてしまう家族の方に、精神科の現場でたくさん出会ってきました。あなたのせいではないということを、まず知っていてほしいのです。
■ 一喜一憂しないで見守る
波があることを知っていると、少しだけ落ち着いて見守ることができます。昨日は良さそうだったのに今日はまた落ちてしまったと感じたとき、それは波が来ているだけです。回復が後退したわけではありません。
支える側も、本人の様子が良くなると「やっと回復してきた」と安心し、また落ちると「また悪くなってしまった」と落ち込んでしまうことがあります。その気持ちはよく理解できます。
ただ、家族の表情や言葉から、本人はとても敏感に感情を受け取っています。「家族を心配させてしまっている」と感じて、さらに自分を責めてしまうことがあります。
波があることを知っておくことで、家族も少しだけ心の余裕を持つことができます。その余裕が、本人にとっての安心につながっていきます。
■ そばにいるだけでいい
波が来たとき、何か特別なことをしなければと思わなくていいです。そばにいること、それだけで十分なことがあります。
言葉に詰まったときは、温かい飲み物をそっと置いてあげるだけでもいいです。
「頑張れ」「気合いで乗り越えて」という言葉は、すでに精一杯頑張っている本人には重荷になることがあります。言葉が見つからないときは、そっとそばにいるだけで十分です。
■ 回復を急かさない
本人が波の中にいるとき、「いつになったら良くなるの」「早く元気になってほしい」という言葉は、本人をさらに追い詰めてしまうことがあります。それはあなたが本人の回復を願っているからこそ出てくる言葉だと思います。
でも、本人はすでに十分に焦っています。
「早く良くならなければ」「家族に迷惑をかけている」という気持ちを、波の中でも抱えているのです。そこにさらに「早く」という言葉が重なると、本人の焦りはさらに大きくなってしまいます。
回復のペースは本人に委ねてください。焦らせるのではなく、今のペースでいいと伝えてあげてほしいです。その言葉が、本人の心をどれだけ楽にするか。精神科の現場で、そのことを何度も感じてきました。
■ 家族自身の気持ちも大切にする
支えることに疲れてしまうことは、当然のことです。不安も、焦りも、時には怒りも、それはすべてあなたが真剣に向き合っているからこそ生まれる気持ちです。
その気持ちを誰かに話せる場所を持っていてほしいと思っています。支える側が心の余裕を持てているとき、本人の回復にも良い影響を与えることがあります。あなた自身を大切にすることも、サポートの一つです。
【心の回復方法として大切にしてほしいこと】
心の回復方法として、特別なことをしなければならないと思っている方がいます。でも、精神科の現場で見てきた中で感じるのは、日常の小さなことの積み重ねが、心の回復を支えているということです。
毎日同じ時間に起きること。一日一回外の空気を吸うこと。食事を丁寧に摂ること。そして、眠れる環境を整えること。
どれも特別なことではありません。でも、心の回復期には、この当たり前のことが難しくなることがあります。できない日があっても、責めなくていいです。
できたときに、小さく自分を認めてあげてください。一つできただけで、十分です。
【おわりに】
心の回復には時間がかかります。波があります。一直線には進みません。
波が来るたびに、「やっぱり自分はダメだ」「もう良くならないんじゃないか」と感じてしまう。その気持ちを抱えながら、それでも今日をやり過ごしてきた。そのしんどさは、経験した人にしかわからないものがあると思っています。
支える家族も同じです。正解がわからないまま、疲れながらも、それでもそばにいようとしてきた。その日々の重さを、軽く扱いたくないと思っています。
波の中にいる今も、あなたの心は回復しようとしています。それは確かなことです。
波があるということは、回復の途中にいるということです。後退しているのではありません。
しんどい気持ちを誰かに話すことは、決して弱さではありません。話すことで、少しだけ荷物をおろせることがあります。一人で抱えてきたものを、誰かと一緒に持ってもらえることがあります。
本人も、支える家族も、話せる場所があります。うまく言葉にできなくていいです。
今の状態のまま来てもらえたら、一緒に考えていきたいと思っています。
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